調和のオーブ

ツイッターで俺のいた映研の現在の映画の告知が流れて、どの映画もつまんなそうだなと思って、俺の映画はもっと綺麗な場面がたくさんあったぞ、今お前らが俺の映画を見たらクオリティの高さに驚くぞ、と思って自分の映画を見返した。いつものことだけどクオリティやっぱり低いなと思い直した。その映画を見るときはやはりTちゃんのシーン、俺の部屋で二人きりで撮ったあの場面、一分間くらいの、を見返して、これはやれたかも委員会案件だなと、いつものことだけど思った。俺の借りている部屋が綺麗なら少なくともTちゃんとSHちゃんとうまくいっていたはずだ。カップル気分で撮った映像のTちゃんのたまらん笑顔の下にある小さい胸とその下にある俺の汚いベッドの上に二人で座ってiPhoneの8ミリアプリで撮りながらあのとき俺はふざけて脚を触ったんだったかは覚えてないけどあれは部屋が綺麗だとか関係なくいけたはずだ。なんか流れで付き合ってるみたいになっちゃうみたいなのがあれば良かったな、A子とはそうなっていたはずなのにどうして頻繁に会わなかったんだろうか、記憶がどんどんなくなる。Tちゃんとあの流れを維持して、より恋人に対する笑顔のようなものを撮って、それでいて他の登場人物もいい笑顔で撮れて、話を複雑にしないでコンパクトにまとめて、アジカンの今を生きてを流してエンドロールだったら完璧な映画だったな(この世界線では横道世乃介は存在しない)ということを考えていた横になっていたのが20:30で寝るには早すぎる上にこの妄想はいつものことだけど無駄だと思ったのでスティルライフ二編目ヤーチャイカを読んでいたが読書すら無駄なんじゃないかと思ってブログを書き始めたのが今ちょうど21:00。

スティルライフ冒頭

「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。

世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。

きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる、世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の飢えにいる。大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。

二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。

水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。

星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。

星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。」

引用してはみたがこの冒頭のよさはあまりよくわかっていない。村上春樹より地に足がついていて、村上春樹ほどキザではないけど、村上春樹のようにたまに実際的な社会が出てくる。なんだか面白かった気がする。それで二編目のヤーチャイカも読んでいたのが青森からの帰りの新幹線。行きの新幹線ではスティルライフを読んで、ホテルでは芥川賞を獲った山下澄人のしんせかいを読んだ。

「しかしぼくは俳優というものに、なりたくなっていたわけじゃないのなら、『向いていない』と言われても傷つく必要はない。ないのにそう思っていたのだ。染まるというのはそういうことだ。」しんせかい

これはわかる。ただのおっさんと思っていた社長や専務や上司、どうでもいいと思っていたはずなのに、今じゃ怒られるとへこむ。いつ辞めたっていいんだと思っていても、会社での評価が気になってしまう。俺ももう染まっている。

青森の病院で新しい薬を顔に塗って、いつものくせで顔を掻くとべたついて気持ち悪い。アトピーの地獄が俺のアイデンティティなのに、病院にいくともっと悪い人がたくさんいて、先生には調子良いねと言われてしまう。調子は良くないんだ。

俺が直面している悩みを本が解消してくれることを望んでいる。でもそういうことは起きない。起きないけど、何か別のところをほぐしてくれているような気がしないでもない。本は無駄。長いしつまらん。でもオーバーウォッチは俺を救わない。本のほうがまだ可能性がある。夫のちんぽが入らないも、俺の悩みとは違ったけど、少し救われるところがあった。本は希望。漫画の名作は踏み荒らした。ゲームは救わない。ブレイキングバッドも中身がない。映画は好みじゃない。本はまだ深雪。本は希望。本はつまらない。いやそれよりも女。女を作る。一人暮らしの女を探してそこで料理を練習して仕事に役立てる。そういう目的で彼女を作るのはまた間違いのもと。すべて無駄に帰す。でも仕方ない。全部無駄ブログもゲームも本も仕事も女も無駄なら比較的無駄じゃないことを探すしかないでしょ?たぶん外に立つ世界と俺の世界の連絡がついてないんだよな。星を上手に見るってどういうことだろう。せせらぎやセミ時雨で良いなら電車から見る田んぼやイオンの看板でもいいんだろうか。水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなるならいいな。木曜日会社の事務の女性を怒らせてしまった。あんまり思い出したくはない。呼応と調和。スティルライフからなにかを学べたのかわからない。でも俺の余裕のなさはきっと、何かとの調和がとれていないことが原因だろう。平穏を心にとゼニヤッタが言う。調和のオーブをつけてもらわないといけない。

スティル・ライフ (中公文庫)